貿易の歴史的展開
・自由貿易体制に必要な要素
① 無差別主義 …特定の国を差別したり優遇しない
② 多角主義 …二国間でなく,多国間で貿易を行なう
③ 為替の自由化…為替取引の規制や制約を解消して外国為替取引の自由化をはかること
19世紀の自由貿易体制
・18世紀後期,イギリスを中心とする産業革命 ・世界に波及
➡貿易の進展(工業国:工業製品輸出,農業国:原材料輸出)
・イギリスを中心に貿易の自由化が推し進められる。
イギリス主導の自由貿易体制
・1880年代以降,イギリスが関税を次々に引き下げる
・1846年,穀物法廃止。1854年,航海条例を廃止➡自由化
・イギリス…
貿 易 面:植民地に自由貿易を強制
中国,日本に不平等条約を結び自由貿易を強制
欧米諸国間で自由貿易主義的条約(無条件最恵国待遇)を結ぶ
国際金融面:ロンドンを中心に国際金本位制度を完成
➡為替の自由化,固定相場制度の実施
➡貿易ネットワークを形成,リカードの比較生産費説が現実世界にも用いられた
自由貿易体制の衰退
当時の自由貿易体制の問題点
・イギリスの覇権を前提とした自由貿易体制だった
・植民地(や半植民地)の存在を前提としたシステム
➡先進国と植民地の経済格差は縮小しない
・19世紀末には,繊維・化学・鉄鋼などの分野で後発のドイツやアメリカに追い上げられた。
・両大戦期間に,世界経済のリーダーとしての地位をアメリカに奪われる。
ブロック化経済
・1920年代,自由貿易体制に崩壊の兆し
・1929年の世界大恐慌で決定的に
・経済立て直しのため,需要の囲い込みのため,各国の国際金本位制度からの離脱➡為替管理
・ブロック化経済(協定国以外取引をしない。Ex)アメリカは関税を40%に上げて他国を締め出す)が進み,第二次世界大戦の一因となった。
・ポンド・ブロック(イギリス・ポンド圏),フラン・ブロック(フランス・フラン圏),ドル・ブロック(アメリカ・ドル圏),円ブロック(日本・円圏)
第二次世界大戦後の国際貿易体制(ブレトンウッズ体制)
・1944年7月,アメリカのニューハンプシャーのブレトンウッズで連合国通貨金融会議が開催(45か国参加)
・国際通貨基金(IMF)
・国際復興開発銀行(「世界銀行」)
(他にも国際開発協会など色々な機関があり,まとめて「世界銀行」という)
IMF
① アメリカ・ドルを中心とした固定相場制
② 為替の自由化
③ 為替の自由化を育成・維持する,あるいは一時的な国際収支難をしのぐための金融機能
➡国際通貨システムの安定化
GATT
・1945年11月,アメリカ「世界貿易及び雇用の拡大に関する提案」
・1947年,キューバで「国際連合貿易雇用会議(通称:ハバナ会議)」
・1948年,ITO憲章を調印 (ITO:国際貿易機関)
・1947年,ジュネーヴで関税引き下げ交渉(23か国参加)
・GATT(関税及び貿易に関する一般協定)としてまとめられる。
GATTとITO
・ITO憲章は,完全雇用や途上国のための国際協力を含んだ包括的なものだった。
・GATTをITO憲章に吸収予定だった。
(GATTはITO設立までの「つなぎ」の協定だったが,ITOの設立はできなかった)
GATT原則
① 自由 …自由貿易(関税の引き下げ,非関税障壁の撤廃など)
② 無差別 …特定の国を差別または優遇しない
Ex)内国民待遇(相手国の国民や産品を自国の国民や産品と同等に取り扱うこと),最恵国待遇(条約を結んだ国が相手国に対し,最もよい待遇を与えている第三国と同等な通商などの待遇を与えること)
GATTのFTAはこれに抵触
③ 互角主義(相互主義)…相手国の自国に対する待遇と同等の待遇を与えようとする主義,give and take
④ 多角主義 …関税・非関税障壁の軽減交渉を二国間ではなく,多国間で行うこと
GATTの例外規定
・農業分野
・地域貿易協定(自由貿易協定,関税同盟)
・発展途上国への自由貿易の原則適応への配慮
GATT/WTOの多角的貿易交渉
開催年 | 参加国 | ||
第1回 | 1948 | (ジュネーヴで開催) | 23 |
第2回 | 1949 | (アヌシーで開催) | 32 |
第3回 | 1951 | (トーキーで開催) | 34 |
第4回 | 1956 | (ジュネーヴで開催) | 22 |
第5回 | 1960-1961 | ディロン・ラウンド | 23 |
第6回 | 1964-1967 | ケネディ・ラウンド | 46+ECC |
第7回 | 1973-1979 | 東京ラウンド | 99+EC |
第8回 | 1986-1994 | ウルグアイ・ラウンド | 124+EC |
第9回 | 2001- | ドーハ・ラウンド | 149 |
・回数を重ねるごとに,①参加国が増えていっている ②期間が伸びている
ケネディ・ラウンド
・主要工業国が特定の産業を除いて関税率の50%を一括して引き下げる
・どの分野を特別扱いするか,ではなく,どの産業を例外にするかに重点
➡結果,全体で平均関税率が35%引き下げられた。
東京ラウンド
・関税のさらなる引き下げ
・はじめて非関税障壁について取り組んだ。
例)輸入に対して数量制限,商品の表示義務が過度,輸入手続きの煩雑さ
ウルグアイ・ラウンド
① 貿易の自由化
・関税が約40%引き下がった
・農業と繊維が自由化に向けて動き出した。
② GATTからWTOへ
・1995年,WTO(世界貿易機関)設立
WTOの新たな対象分野
・サービス貿易(金融,保険,通信,運輸,法務サービスなど)…「サービス貿易に関する一般協定」
・知的財産保護制度(特許権,著作権,商標権など)…「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定」
・貿易関連投資措置
ミニマム・アクセス(ウルグアイ・ラウンドでの合意)
最低限の輸入機会(ミニマム・アクセス機会)を提供することが求められ,関税化することが義務付けられた。(いかなる貿易品目にも最低限の輸入枠を義務的に設定するという考え方)日本は,コメを輸入許可制で輸入規制してきた。
ドーハ・ラウンド
・これまでに解決しきれていない諸問題(農業,アンチダンピング,投資,環境,途上国問題など)
・2001年11月に新ラウンドスタート
・あらゆる諸問題が解決できない。
ドーハ・ラウンドの頓挫と地域貿易協定
・1990年代半ばから,ウルグアイ・ラウンド後,ドーハ・ラウンドに入り,多角的貿易交渉が頓挫しそうなときに,FTAや関税同盟が活発化した。
・自由貿易協定(域内の関税,数量制限の撤廃)と関税同盟(対外共通関税)
FTAの効果と問題点
・貿易創出効果(メリットのケース) …関税同盟や自由貿易協定の締結により,国内価格が低下し貿易が拡大すること。
・貿易転換効果(デメリットのケース)…自由貿易協定の締結により域外の低価格国から域内の高価格国に輸入相手国が転換すること
・市場拡大効果
・競争促進効果
・スパゲッティ・ボウル現象 …多くの国や地域がさまざまな自由貿易協定(FTA)に参加することによって,二国・地域間で複数の協定が存在し,異なる基準や規則が複雑にからみ合っている状態
【用語の解説は一部コトバンクを参照しています】
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